プロミス色のアソーク駅
小熊 誠
(本文は2025年11月に寄稿されたものを一部加筆掲載しています)
アソーク駅は、バンコクの中心部にある。
交差点沿いの高層ビルには、JICAタイ事務所が入り、交差点脇の路地を入れば、ソイカーボーイという歓楽街の灯もにじむ。日本で言えば、規模こそ小さいが、新宿駅のような雑多で人間くさいエネルギーを放つ場所だ。
ある日、駅に降り立つと、いつも見慣れた風景とは違う黄金色の広告で占められていた。改札口も、階段も、手すりの下の板も、時計の下でさえ黄金色一色に染められている(注:ポスター内は黄金色だが、実際は階段・改札口等、黄色に近い)。
それは「プロミス」、つまり消費者金融の広告だった。アソーク駅がまるごと、一つの巨大な広告に変わってしまったかのようだった。
黄色というコーポレートカラーには、「活動的」「元気」といった明るい意味があるという。だが、ここで見るその黄色は、ド派手で、どこか妖しい。広告の女性モデルも、自信に満ちた無機質な笑みを浮かべている。健康的で、妙に美しく、まるで借金さえも明るい未来へ導くかのような表情だ。その笑顔を見ていると、消費者金融が危険なものだという感覚は薄れていく。
しかも、黄金色の背景に並ぶタイ文字は、一見するとただのデザインのように見え、タイ語を解さない私のような外国人には、ただのポップなデザインにしか見えない。しかし、文字を追えば追うほど、そこに潜む現実が浮かび上がる。
| 原文(タイ語) | 日本語訳 |
|---|---|
| กู้เงินปลอดภัย | 安全なローン |
| กู้ได้ทุกที่ | どこでも借りられる |
| อุ่นใจที่พรอมิส | プロミスで安心 |
| อนุมัติไวใน 1 ชั่วโมง | 1時間で承認 |
| สูงสุดไม่เกิน 300,000 บาท | 最大30万バーツまで |
嘘のように軽やかで、どこか怪しげである。この文字を毎日目にするタイ人は、どんな思いで、アソーク駅を通り過ぎるのだろうか。
アソーク駅の明るい黄金色の奥には、静かに、しかし確実に、借金という現実が潜んでいる。人を引き寄せ、呑み込むようなその輝きを前にして、私はただ、誰もがその罠に落ちないよう祈るしかなかった。
「プロミス」はSMBC(三井住友銀行)フィナンシャルグループの消費者金融だ。この広告に、いったいどれほどのお金が注ぎ込まれているのだろうか。もちろん、借りたい人がいて、貸したい会社がある。その需要と供給の狭間で、バンコクの街も息づき、人々は逞しく生きている。とはいえ、日系企業の利益追求の光が、知らぬ間に人々の生活に影を落とすことのないようにと願わずにはいられなかった。
時を同じくして、2025年11月18日、タイ政府は市民の借金の一部を免除する徳政令を閣議決定した。2026年1月から始動するこの政策の予算規模は、最大1,200億バーツ、日本円で約6,000億円の返済が免除されるという。
誰もが慎ましく暮らし、借金の少なかったかつての社会と、経済成長の名のもとに豊かさを享受し、その代わり債務を抱える現代、いったいどちらが本当の意味で豊かと言えるのだろうか。私はプロミス色の広告に包まれたアソーク駅を歩きながら、その問いに答えを見いだせずにいた。






