2015年秋から携わっているJICAの技術協力プロジェクトも後半戦に入ってきています。来年2019年秋の終了時までにどんな成果を上げるかは、今年の活動に掛かっていると言っても過言ではありません。キルギスで対象としているのは、北部の3州でその内、東部のイシククリ州と首都があるチュイ州は、第1フェーズのプロジェクトが活動していた地域で、他のドナーも比較的盛んに支援してきていることから、対象としている各営林署の対応にも慣れたところがあり、実務能力もそんなに悪くありません。一方、西部のタラス州は、2011年に青年海外協力隊が引き上げ、アメリカの平和部隊もしばらく派遣を取りやめているなど、開発援助があまり届いていない空白地帯です。観光資源にも乏しく、交易は首都のビシュケクよりも、タラス川下流のカザフスタンとの間で盛んな場所でもあります。
仕事を進めていく上で、タラス州には対象の営林署が3つあるのですが、最西端のマナス営林署は、活動計画書を準備する段階で脱落して、2つが残りました。タラス州の州都にあるタラス営林署は、規模も大きく第1フェーズの際に、苗畑の拡充や水源ポンプ向けの送電線配置等の支援を受けていたことから、取り組みやすいと当初は考えていました。もう一つのバカイアタ営林署は、こじんまりとしていてプロジェクトにも積極的に働きかけてこなかったことから、何を活動の柱にすればいいのか、迷ったくらいです。署長のシャイロベックさんは、私とほぼ同い年で朴訥とした無口な方ですが、付き合う内に有言実行の方だということが分かってきました。試験苗畑の設立ということで昨年春から、矮化・半矮化の果樹(リンゴやサクランボ等)の苗木をポーランドから調達して、タラス州では唯一この営林署に配布することになったのですが、その時は正直言って、うまく行くことをあまり期待していなかったのです。果樹以外にも、シーバクソン(グミ科の小低木になる黄色い果実で最近日本でも健康食品として脚光を浴びつつある)も試験栽培のため導入したのですが、どうしてどうして、肥料の手配やフェンスの強化、苗畑管理人への指示出しなど、コツコツと仕事を進めてくれたのでした。
そして、去年秋には、本邦研修と呼ばれる日本での2週間の講習に他3名と参加、岩手県や青森県の果樹生産者や加工工場、流通会社、種苗会社等を訪問し、得たところが多かったのか、日本びいきになってくれました。実は、タラスは旧ソ連時代にプルーンを旧東ドイツ系の移民が栽培して、地元では知られたプルーンの産地でしたが、キルギス独立後に旧ドイツ系の人たちはタラスを離れてしまい、プルーンの林は放置された状態になっていたそうです。
今回、2月中旬に巡回指導の一環としてバカイアタを訪問した際は、まだ雪景色の寒い1日でした。細々とですが、ヨーロピアン・プルーンと呼ばれるフランス系のプルーンの苗木を60本と少ない数ですが、ポーランドから調達して、バカイアタに植栽していました。この苗木が地元の行政機関の眼に止まることとなり、セミナーを開いてくれと署長に頼んできたとのことでした。「この3月上旬に30名ほどを苗畑に呼んでセミナーを開くことになったから、困った困った!」と語る署長でしたが、満更でも無さそうです。
今年は、植えた果樹を剪定して台木に継ぐという大事な作業が予定されています。 継いだ苗木を育て、上手くいけば、販売することも将来可能になります。これまでは、針葉樹やポプラなどの森林系の苗木を育てた経験はある営林署に人たちですが、果樹の苗木生産は、新たな挑戦でもあります。プロジェクト関係者一同、今年も綿密な後方支援を続けて少しでも多くの苗木が育つよう願うばかりです。