トンガ国内線航空の現状
中曽根 徹治
トンガ王国(企画調査員)
途上国といえども、自国の航空会社にはある意味その国のプライドもかかっており、他国の航空機が国内路線を飛行するという風景はあまり見ないのではないでしょうか?。つい最近トンガでそんな風景が見られたので、トンガの国内線事情も併せながらご報告します。
コロナ禍前、トンガでは民営の「Real Tonga Airlines」が国内線運航を担っていました。コロナによりReal Tonga社は破綻し、国営「Lulutai Airlines」として運営されることになり、機材の問題を抱えつつもなんとか無事に運航されていました。LulutaiはATRに取って替わられる前のサーブ社の名機であるS340B、1機とハルビン飛行集団製のY-12を1機所有していますが、国の財政難で十分な維持管理が行えるはずもなく、最近S340BがNZにドナドナされてしまいました。
ターボプロップエンジン1基の交換が必要なようですが、S340 Bは既に生産を中止しておりエンジンは中古市場で調達するしかありません。不運なことに過去日本が無償供与した離島間大量輸送を担うフェリーである「オトアンガオファ」も、大型整備点検のためNZにドナドナ中。その上、Y-12は15人程度の乗員で離島間の旅客需要には全くマッチしていません。
そんな国内線を正常運航できない状況でトンガ政府が頼ったのはオーストラリア政府。AUS政府の支援により短期間ではありますが、Fiji Airwaysの機体がトンガの国内を飛ぶことになりました。Fiji Airwaysがトンガに送り出した機体は、日本でも離島間などで運航されるATR72-600とDHC-6 series400、通称ツインオッターの2機種です。こちらがフィジーから国際線として到着し、必要手続きを経て国内線エプロンに移動。そしてトンガ国内線としてババウなどの離島に飛び立ちます。
LulutaiとFiji Airwaysどちらの機体にも出張で搭乗することになりましたが、正直な感想を述べてしまうと「国内線運用はFiji Airwaysに任せたらどうでしょう(笑)」という感じです。Lulutaiの中国製Y-12はFiji AirwaysのDHC6とそっくりですが、これはY12がDHC6のデッドコピーだからで、似せられたのは形状だけで性能が全く違います。日本人と結婚した知合いの機長と家で食事をした折に聞いた話では、DHC6 は離陸・着陸に400m程度しか必要のない脅威の性能だそうです。比べてY12は離島の短距離滑走路を端まで使用し、駐機場まで戻ってこないといけません(笑。
国のプライドもあるので、Fiji Airwaysがトンガの国内線を担うというある意味夢のような話になるとは思いませんが、Lulutai社がART72の購入を考えているという話を聞くと、そっちの方がよほど夢物語に聞こえます。トンガ政府はATRの機体価格が、24年から始まる某国への借款返済により生じる財政ギャップを遥かに上回ることを認識しているのでしょうか。もしくはDAC加盟ドナーに要請すれば、某新興ドナーが過去に大型旅客機「MA60」 を供与してくれたように、ATR72を供与してくれると考えているのでしょうか? どちらの選択肢も現実的でないことは確かなので、今後のトンガの国内線運営が前途多難なことだけは間違いなさそうです。
さて前述の某国が供与した「MA60」。現在は空港倉庫前に長年駐機?しています。Y-12は一応米国の型式証明を取得したことや、エンジンもPW製なので恐る恐るながらも搭乗しましたが、世界有数の事故実績を持つMA60には多分運航していたなら搭乗はしなかったかも。。。私のトンガ勤務までに鉄塊化していて本当に良かったと胸をなでおろすと同時に、飛行機レストランに改装すればマニア受け間違いないのに、などと考えたりしているところです(笑。