トンガ最新の出稼ぎ事情
中曽根 徹治
トンガ王国(企画調査員)
海外で働いてその給与を母国の家族に送ると言えばフィリピンのOFWが有名です。全体の送金規模ではフィリピンの足元にも及ばないものの、実は出稼ぎトンガ人の海外送金もトンガ経済にとっては大きな影響力を持ち、多くのトンガ人家族が海外送金により支えられています。
トンガ人の主要な出稼ぎ国はニュージーランドとオーストラリアです。コロナ以降の世界的な物価高騰や経済変動のもとで、人口10万程度のトンガが壊滅的な影響を受けずにやってこられたのも、出稼ぎトンガ人の送金によるところが大きかったと言えます。コロナ以降国境を閉じたトンガ。出稼ぎトンガ人がクリスマス帰省のために蓄えていた旅費資金などを全て家族への仕送りに回したことで、2020年の海外送金はGDPの40%に迫り、対GDP比では堂々の世界一となりました。
Country | Most Recent Year | Most Recent Value |
---|---|---|
Tonga | 2020 | 45.5 |
Kyrgyz Republic | 2020 | 31.1 |
Tajikistan | 2020 | 26.9 |
Lebanon | 2020 | 25.6 |
Samoa | 2020 | 25.3 |
Somalia | 2020 | 24.9 |
Personal remittances, received (% of GDP) 海外送金対GDP比ランキング(WBデータ)より
さて先日大家が主催したNZハイコミのカウンターパートであるライアン氏の送別パーティー。その席でトンガの最新出稼ぎ事情を聞く機会に恵まれたのでお伝えしたいと思います。
主役は大人しそうな若者。大家の出身地であるハーパイ諸島、人口130人程度のロファンガ島から来た高校卒業の21歳。この時はオーストラリアからクリスマス休暇で里帰りしたばかりでした。
彼によるとオーストラリアには政府の制度であるPALM(Pacific Australia Labor Mobility)を利用して渡航。出来高の部分もありますが、日当216A$(1A$=92円換算で19,900円)、月22日労働で4,752A$(437,000円)。仕事はフルーツピッキング。驚いたことにこの給与額は税金等控除後の手取りだそうです。色々と納める税金が多い日本だと、月収52~58万円、年収620~700万円相当額の給与を受取るイメージでしょうか。
労働需給のひっ迫からコロナ前はそれなりに強気であったNZやAUSも、背に腹は代えられず季節労働者受入のハードルを下げている印象です。写真の彼は年が明けたら再度オーストラリアに向かい給与を家族に送金します。それは全家族が小さな島で生活するには十二分な金額です。
翻って日本への出稼ぎ事情はどうでしょうか。厚労省の調査によると令和2年の日本の技能実習生の平均給与は16万円程度だそうです。そこから宿代など色々引かれると手取りは精々10~12万円程度なのではと推察します。今はまだ「黄金の国(ジパング)」と勘違いして?日本を目指す、アジアの若年労働者を確保できています。でもトンガ人の出稼ぎ話を聞いて、本当にアジアの若者が今後10年日本に働きに来続けてくれるのだろうか、と少し心配になった次第です。
まあ例え近い将来日本がアジアの「ジパング」でなくなったとしても、①お得意のロボット技術に再生エネルギーを使って肉体労働はロボットが代替、②ホワイトカラーの単純労働はAIが代行、③結果として人間は一日3時間労働で十分、という社会に日本はなっているだろうと、個人的には楽観的に考えています(笑)。さて10年後の日本はどんな社会になっているのでしょうか。