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アソシエイトレポート 2023年2月

タイの辺境の地は夢の始まり(最終章)

小熊 誠
ラオス人民民主共和国(プロジェクト業務調整)

【夢の終わり】

17時にウドンタニ空港に着き、市内に入ると、すでに18時を回っていた。国境に向かう乗合バン乗り場に行くと、次の便は19時と言う。しかし、19時になってもまだ来ない。どうしたものかと思っていると、やっと車が来た(写真15)。すでに真っ暗な中での出発である。ウドンタニから国境ノンカイまではわずか50Km。時間にして40分足らずの距離だが、途中、大雨に変わり、交通事故も相まって、大渋滞となっている。タイ・ラオス友好橋は24時間通れないはずだ。何時に閉まるのだろうか。渋滞するバンの中、iPhoneで調べると20時と書いてある。まずい。ラオスに帰れず、ノンカイ泊まりになるのか。ノンカイの友好橋に到着したのが20時20分。幸い、まだ開いている。イミグレの職員に聞くと、22時に閉まるという。なんとかセーフだ。長らくコロナでタイ・ラオス友好橋が閉鎖されていたせいもあり、24時間開いていないということを今になって思い出した。イミグレを通り、ホッとしていると、迎えに来た公共バスは、ラオスに援助されている京都バスであった(写真16)。なんと滑稽なことか。

ラオス側に入るとタイミングよく携帯電話が鳴る。「何時に出てくるんだ?」とラオスの友人が笑って電話をかけてきた。まさか私がバンコクまで行っているとは思わなかっただろう。時間を告げてもいなかったのに、私を迎えに来てくれていた。聞いてみると、なんと昼からイミグレの外で待ち続けていたらしい。なんと暇人なことか。もし私が今日戻らなかったら、どうしていたのだろう。こういう点、ラオス人は不思議である。

写真15 ウドンタニでの乗合バス
写真16 友好橋を渡る京都市バス

ビエンチャンは、雨が降りしきり、しかも電柱に灯りはない。道路は真っ暗である(写真17)。バンコクから来た私には、なんとも都落ちした気分になる。身も心も真っ暗である。タイとは違い、暗い国。真っ暗な中、20分かけて家に着くと思いきや、コンビニの前で停車。屋台に立ち寄り、ちゃっかりビールとつまみを頼む(写真18)。しかも悪気もなく、「さあ、飲もう!」と。人の金で飲むのも平気なラオス人。でも、なんだか憎めない。最高の笑顔である。仕事はそっちのけだが、楽しむために生きる、そんな人たち。そんな素朴さがラオスにはある。さすがに日本やタイにはこんな雰囲気はもうない。ラオスには『男はつらいよ』のフーテンの寅さんや、『無責任男シリーズ』の植木等みたいな底抜けに明るい人たちがたくさんいる。そこが面白いと言えば面白い。つい先程まで、バンコクにいて、感傷に浸っていた自分はなんだったのだろうか。金もないのに、屈託なく笑いながら、さあ、飲もうと言えてしまうラオス人。最高じゃないか。こんなラオスが好きな自分もいる。協力隊を含め、3度赴任したタイ、そして2度の赴任のラオス。タイ、ラオス、国力の違い、国民性の違いこそあれ、どちらにも待ってくれる人がいる。

バンコクまで行ったのは夢だったのか、昨日ラオスを抜け、バンコクまで行ったのに、いつの間にかラオスに戻っている。メコン川を越えれば、そこには確実に違う世界がある。タイ辺境の地も、ラオスからはまさに夢の始まりであった。一日という儚い夢も終わりを告げ、今ラオスで日常に戻ろうとしている。

『ありがとう、タイ!これからもよろしく、ラオス!』

写真17 真っ暗なラオスの夜道
写真18 迎えに来てくれたラオスの友人