タイの辺境の地は夢の始まり(続編)
小熊 誠
ラオス人民民主共和国(プロジェクト業務調整)
夕方、仕事を終え、オフィスを飛び出し、タイ国境の駅舎ノンカイ駅に到着。嬉しさのあまり、何も考えずに、寝台車両のチケットを買って、寝台車に乗り込んだ。日本で言えば、青森駅に来たという感じだろうか。いやいや、もっと寂しげである。しかし、ここからバンコクへ行けるとなれば、夢のある駅舎ではある。座席番号を確認し、座席に着くと、上段がベッド、下段は椅子ではないか。下段は寝台ではないのか(写真1)。しかも、すでに男の人が座っている。上段の乗客なのか、はたまた下段のもう一人の乗客なのだろうか。二人で足も延ばせず、椅子に座り、発車を待つ。ばつが悪い。二人とも無言である。この状態でバンコクまで行くのかと思うと、さっきまでの恍惚感は吹っ飛び、なぜ寝台を買わなかったのか、なぜ駅員にちゃんと確認しなかったのかと、自分の浅はかさだけが頭の中をよぎった。
19時40分、定刻通り出発し、しばらく走ると、何人かの車掌が車内に入り、作業をする音がする。どうやら、下段の椅子をベッドにセッティングしているようだ。私のところにも来ると、もう一人の客人は何言うこともなく上段に移り、彼が上段のチケットを購入した人であることがわかった。車掌は手際良く、椅子を引き出し、ベッドにし、シーツを敷くと、寝台車両らしく、寝床となった(写真2)。さらに水が配られる。ラベルは、フアランポーンの駅舎に、「ROT FAI」と書かれている(写真3)。タイ語で「電車」という意味である。なんだか安心するとともに、なんてかわいいデザインだと思えてくる。
22時、コンケン駅に停車。そして、消灯。しばらく窓の外を見るも、特に景色が見えるわけでもなく、駅に停まるたびに、窓から明かりが漏れてくるため、眠れない。どこの駅も人がおらず、寂しげである。うとうとするうちに、車内アナウンスが流れる。時計を見ると、5時だ。窓外にはうっすらと車が見え始め、バンコクが近いことをうかがわせる。
6時、巨大な駅舎が見える。よく見ると、「BANG SUE GRAND STATION」とある(写真4)。バンスー中央駅。タイの勢いを感じさせるモダンでとてつもなく大きな駅舎であった。
6時25分、終着駅に到着(写真5,6,7)。フアランポーン駅だ。さっきのバンスー中央駅とは違い、時代を感じさせる。まるでタイムスリップしたようだ。日本で言えば、上野駅だろうか。いや、どことなく歴史的な趣を感じさせる駅である。
タイ国政府観光庁のホームページによれば『1916年に竣工したバンコク最大かつ最古のターミナル駅。ドイツのフランクフルト駅をモデルにデザインされたドーム型の駅舎は独特の趣をもち、』とある。上野駅ではなく、フランクフルト駅か、しかも1916年とは。なかなかやるじゃないか、タイ。昨日の夕方は、仕事場にいたのに、今は、かつて慣れ親しんだバンコクだ。
さあ思い出の地を散策してみるとしよう。【次号につづく】
註1:バンス―中央駅。フアランポーン駅に代わるターミナル駅として大改装が行われた駅であり、駅舎の長さ596.6メートル、幅244メートル、高さ43メートル、床面積が274,192平方メートルと、東南アジア最大規模を誇る駅である。また、150億バーツを投じて駅付近に2,325ライ(タイ語版、英語版)(372ヘクタール)におよぶSRTの車両基地が建設された。(ウィキペディアより)
註2:1916年に竣工したバンコク最大かつ最古のターミナル駅。ドイツのフランクフルト駅をモデルにデザインされたドーム型の駅舎は独特の趣をもち、構内には旅行案内所、銀行、両替所、レストラン、フードコート、コンビニ、インターネットコーナー(有料)のほか、長旅の旅行者のためのシャワー室(有料)などもある。(タイ国政府観光庁より)