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アソシエイトレポート 2022年8月

食料危機は来るのか?

小村 浩二
パキスタン・イスラム共和国(母子保健プロジェクト業務調整員)

戦争に略奪はつきものだ。ウクライナ南部の販売店から盗まれた農業機械がロシア・チェチェン共和国に運ばれた。農業機械は遠隔操作対応、つまり農業機械に装備されたGPSでその所在がわかった。このような農業、食料に関わるニュース、5月前半分を拾ってみた。

ロシア、ウクライナ侵攻のニュースで真っ先に頭をよぎったのは、世界的な食料危機だ。中東諸国は大変なことになるのではと心配になった。4月に、一年のうちで一番消費量が増える断食月ラマダンをひかえていたからだ。かつてローマ帝国時代、ローマ市民の腹を満たしたパン、小麦の主要な供給源はエジプトだった。今やそのエジプトも主食のパンの原料となる小麦を国内生産で賄えず輸入している。2020年小麦輸入量の約8割がロシアとウクライナだった。この戦争の影響はすぐに現れた。3月に小麦価格は60%増となった。アラブの春、クーデター、パンデミック、そして小麦供給地での戦争である。エジプトではパン配給制度が存在する。政府に金があっても原料が手に入らなければ配給もできない。政府は代替輸入先を求めて必死だ。主食のパンが手に入らないとなると物価上昇と相まって抗議活動へとなりかねない。そのような時、穀物を満載したロシア船がやってきた。喉から手が出るほどに欲しい小麦、エジプトはロシア船の寄港を拒否した。ウクライナから略奪した穀物などいらないと。

食料自給国であったはずのトルコ、小麦を輸入しておりその約87%をロシアとウクライナから輸入していると知って驚いた。納得がいかず調べてみた。日本のパスタ、国内供給量の4分の1がトルコ産。さらに調べていくと北アフリカ諸国がトルコから小麦を輸入とある。これがなんとトルコがロシアなどから輸入し、トルコで製粉して輸出したものだった。日々流される情報を鵜呑みにできない。そのトルコでは3月上旬、食用油がなくなると食料品店に人々が押し寄せるというひと騒動があった。トルコは国産で足りないヒマワリ油をロシアとウクライナから輸入し、輸入量の92.8%をこの2ヵ国が占めている。戦争が始まりトルコ向けヒマワリ油を積んだ貨物船が出航できなくなったことが発端だった。政府は、緊急対策でなんとか乗り切った。さらに、今後に備えてヒマワリの作付け面積を増やす対策を打ち出した。

ガレット、そば粉で作ったクレープは、フランスのブルターニュ地方が発祥である。この地でそば粉が不足、もちろん日本でも。発祥の地であろうが、そばは日本食であろうが、どこもかしこも輸入に頼っている。そばの生産量は、ロシアがトップで中国、ウクライナと続く。フランスでは、早速にそば作付け面積を2倍にし自給を目指す。

日本では、新そばの収穫期は秋である。が、暑い夏によく冷えたそばが好まれ需要が高まる。夏に風味の高いそばを求めて南半球のオーストラリア、タスマニアへ。今では夏場の新そばとしてタスマニア産が輸入されている。日本人の食へのこだわりは、海外にまで飛ぶ。そばにガレットと国内需要を満たすために生産増への取り組みはあるのだろうか。

ところで、食料自給で思い出すことがある。我が国で「減反政策」なるものが始まったのが1970年である。実家でいつからこのおいしい政策に乗っかったかは知らない。覚えていないが知恵が少しずつつき始めると子どもながらに米を作らなくても金がもらえる、これっておかしいではないかと思ったものだ。食料自給率が減少傾向にあるのにもかかわらず。また足りなきゃ輸出産業で稼いだ金で輸入すればよいという大人の言葉にうそ寒さを感じた。この政策、2018年まで続いた。最近は家畜の餌として飼料用米の生産を奨励、もちろん補助金が出ている。我が国の環境保全の役割を担う水田の機能を維持する。そして、飼料自給率の向上と畜産物の安定供給を可能とするために。では、この戦争で危惧される食料危機に対して我が国は何か手を打ったのだろうか。鹿児島の早場米は4月上旬に田植えだ。苗の準備を考慮したら3月の上旬に食料危機を想定した米増産計画が国の方針として出されるか、と有り得ないことを期待していた。飼料用米などの作付け意向なる資料はあったが、この戦争に関しての増産計画は見当たらなかった。半導体不足など工業製品に関わる対策はニュースにあるが、食料生産、増産に関する報道は見当たらない。日本で食料危機、何をすっとぼけたことを心配しているのだ、と思われるか。

最近、戦争の報道を見ていると、秋まき小麦が青々としている畑、鋤起こした畑に春まき小麦だろうか、それともヒマワリかトラクターで種を蒔いている映像が流れる。戦時下でも食うための営みが続けられている。今年、収穫までこぎ着けるのか。ウクライナの人々だけでなくウクライナ産を輸入していた国の人々の腹を満たすことができるのだろうか。

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5月9日戦勝記念日、キルギス、ビシュケクにて(2021年)