赴任国によって体は変わる
笹山 桐子
国際医療福祉大学成田看護学部国際看護学助教
在外生活が長くなると、運動不足や、外食の機会が多くなることで体重増加が気になりませんか?昔、在外健康管理員として西アフリカにいたときによく隊員から「女性は太るけど、男性は痩せる」と言われました。たしかに、遺伝や食の好み、年齢、もともとの生活習慣で太りやすい・痩せやすいなどはありますよね。
海外ボランティアと駐在員の食生活はちょっと異なると思いますが、同じ企業内で海外駐在員の男性グループ(平均年齢46.3歳)と日本在住の男性グループ(平均年齢46.8歳)について、それぞれ1年後の健康診断結果を比較したところ、1年後、体重、空腹時血糖やHbA1cの値は両グループに差はなく、インスリン抵抗性は海外組でやや上昇したという結果がありました¹⁾。まあ、1年ですからそうはすぐには体に影響しないかもしれません。しかし、海外駐在員グループでは肝機能の悪化が認められ、飲酒日数も赴任前と比較して有意に増加していました。
在外勤務中はたしかに飲酒というか外食の機会が多かったですよね、そういえば、日本でもコロナで家での飲酒する機会が増えて健康診断で肝機能のデータが悪くなったとよく聞きます。
経済協力開発機構(OECD)の2019年のデータによると、加盟国20か国のうち17か国では、成人人口の半数以上が肥満傾向または肥満、メキシコ、チリ、米国では70%を超えました²⁾。一方、日本や韓国は成人の35%未満。そう、日本人は欧米人や、セネガルのお母さんたち比べると本当に細い。よく隊員が、現地のパワフルなおばちゃんたちに「もっと食べろ食べろ」と言われてはついつい脂っこいご飯を食べ過ぎて、お腹を壊していました。
肥満は、日本では深刻な問題ではないのかもしれません。しかし、アジア人は低いBMIでも糖尿病になることはよく知られています。つまり肥満ではなくても糖尿病を発症してしまう可能性がある。それは、日本人を含むアジア人はアフリカ人や白人と比べて体脂肪の分布が異なるため、標準体重を少し超えた程度でもインスリン感受性が低下し、2型糖尿病の発症率が著しく上昇してしまうからです。
「肥満じゃなくても血糖値は上がる?」という恐れを抱き、以前、某健康センターで勤務中、二次データ使用の許可を頂き、倫理委員会や法務部を通して某海外勤務者が多い組織で社員の健診データを分析しました。ベースラインで糖尿病を発症した人、すでに血糖値が高い人、妊婦さん、同意ない人を除外し、2012年から2018年の間に海外赴任した445人が帰国後、どれぐらい血糖値が上がるか調べてみました。血糖値はすぐには上がらないので、糖尿病になる少し前の段階である、「糖尿病の予備軍(空腹時血糖値100mg/d以上もしくはHbA1c5.6%以上)」の発生率を年齢、性別、派遣地域別で調べてみました。
その結果、平均年齢は37.9±7.7歳、糖尿病予備軍になったグループは、糖尿病予備軍にならなかったグループに比べ、年齢が高く、帰国時の体重も有意に増えてました³⁾。これは想定内。興味深かったのは、糖尿病予備軍のグループと赴任地域とでは関連性があり、アジア・大洋州に赴任した人と比べて中東・ヨーロッパに赴任した人は2.1倍(95% Cl 1.3-3.4)、中南米に赴任した人は1.8倍(95% Cl 1.2-2.8)でした。意外や意外、アジアに赴任するより、中南米や中東での在外生活は血糖値が上がりやすいのですね。もちろん、人によってさまざまな生活スタイルがあるので、すべての人に同じことが言えるかはわかりませんが、中南米、中東方面に赴任される際のご参考になればと思います。
参照:
1)Iizuka, T., Uchikoshi, A., Koga, T., Abe, S., Ujita, Y., Tsukui,K., & Honda, A. (2004). Changes of life style and its related diseases during working abroad in Japanese male. Japanese Journal of Occupational Medicine and Traumatology, 52(2), 119-124.
2)Organisation for Economic Co-operation and Development (2021). OECD HealthStatistics 2021 https://www.oecd.org/health/health-data.htm
3)Sasayama, K., Gilmour, S., Oyama, T., Hiroe, H., Tsuchiya, M., Uno, I., ... & Ota, E. (2020). Risk factors for pre-diabetes in Japanese workers on long-term overseas assignments: A retrospective cohort study. Obesity Medicine, 19, 100235.