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アソシエイトレポート 2021年1月

歯医者へ行くのはお好きですか?

笹山 桐子
主任研究員/聖路加国際大学大学院看護研究科博士課程

大変だった2020年が終わる。旅行に飲み会、帰省と、好きなことができない一年であった。そして何よりも歯科受診になかなか行けない一年であった。こんなことをいうと、よく驚かれるが、私は無類の歯医者好きである。若い頃は誤解を受けて「え?医者との出会いのほうがよくない?」と言われたが、そういう意味ではない。歯科医院へ行き、あのキーンという音を聞くのが好きなのである。日本にいる時は定期チェックは欠かかず、仲良しの歯科衛生士(女性)に「磨きすぎです」とよく注意を受けた。日本で認可されていないホワイトニングを試したりもした。次に生まれ変わったら職業は看護師ではなく歯科衛生士を選ぶだろう。

意外に知らないお口のケア

そこまで好きならばさぞやむし歯なんて一本もないであろうと言われるが、恥ずかしながら治療歯は数本、抜髄(歯髄という神経を取り除く処置)もした。食後は歯磨きを欠かさず、たとえ飛行機移動中も食後の歯磨きのために、CAのワゴンを無理やり押しのけても歯磨きをした私。しかし、むし歯はできる。なぜだろう。

その答えは、たまたま関わった「フッ化物のガイドライン」にあった。フッ化物とはフッ素のことで、テレビコマーシャルで上戸彩が「オレンジのクリニカ~♪」と歌っているあの「フッ素」である。ちなみに、化学物質の名称を決めている組織(IUPAC)によると元素名で使用されるときは「フッ素」、無機物のフッ素化合物に対しては「フッ化物」と呼ぶらしい

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ドラッグストアなどで高濃度のフッ素の歯磨き剤は簡単に購入できます。

ガイドラインによると、そのフッ素をつかった歯磨き実施はむし歯予防に最大の効果をもたらし、フッ素の濃度と適用頻度でむし歯の予防が決まると書かれている。そして別の資料では、「15歳以上の場合、フッ素濃度950ppm未満の歯磨き剤を使用した場合は、フッ素配合のない歯磨き剤とむし歯予防効果は変わらない」と書かれていた。どこまでのフッ素濃度の歯磨き剤があるのだろうか?調べてみると、2017年までは日本では市販のフッ素配合の歯磨き剤は1,000ppm(フッ素濃度0.10%)が最も高濃度、今は1,500ppm(0.15%)を上限に市販されている(ただし、6歳未満の子どもは使用を控える)。いつも使っている歯磨き剤を手に取ってみると、「フッ素」の文字はあっても濃度までの記載はなかった。こういう場合、濃度は低いらしい。「高濃度フッ素」もしくは「フッ素1450ppm」と記載されている歯磨き剤が、日本の市販で購入できる最も高いフッ素濃度の歯磨き剤なのである。

そして次にフッ素の濃度とともに重要なのが、歯磨き後のゆすぎらしい。ガイドラインを読むまで知らなかったが、歯磨き後の口のゆすぎ(うがい)はごく少量の水(5-15ml)1回だけで、1-2時間は飲食してはいけない。なぜならば、フッ素のその間、口の中で歯の再石灰化を促進し、むし歯菌の働きを抑え酸の発生を阻害してくれるからである。

在外行くならぜひこれ!

昔、私がアフリカ方面へ行く際は、必ず歯間ブラシと歯ブラシ数本、お気にいりの歯磨き剤数本、電動ブラシを必ず持って行った(このあたりで私が口腔ケア・ラブのご理解いただけるかと思います)。在外に行かれる方、また一時帰国にご帰国された方にぜひ、高濃度フッ素入りの歯磨き剤をお勧めしたい。ただし6歳以下のお子さんには使用できないので、お子様には別にご準備ください。

海外では1940年ごろからアメリカ・カナダでは水道水にフッ素を入れはじめている。また、フッ化物入りの食塩、粉ミルク、錠剤や液剤なども販売されている。日本では、やっと最近になって市販の歯磨き剤に1500ppmまでの濃度が承認されたばかりで、海外に比べるとかなり慎重ともいえる。おそらく、「フッ素症」(歯に褐色の斑点や染みができる症状)に対して慎重な姿勢なのであろう。しかし、この症状は日常で常識的な範囲で使用している際、全く問題はない。

在外でボランティアの健康管理にかかわっていた時、最も多い傷病はむし歯による歯の痛みと充填物脱落(詰め物が取れる)であった。在外勤務中、言葉や衛生面の問題から歯科受診にちょっと行きにくい。むし歯を発生させないためにも、セルフケアは重要。まずは今使っている歯磨き剤のチェックから始めてみるのはどうであろうか。

参照にしたもの:日本口腔衛生学会フッ化利用委員会編 う蝕予防の実際 フッ化物局所応用実施マニュアル