ミャンマーの精霊

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タイ  碓井哲郎

   業務調整員 

 

昨年まで住んでいたミャンマーの実質的首都ヤンゴン。イギリスがビルマ最後の王朝、コンバウン王朝との第2次英緬戦争の勝利により占領して割譲させた後に建設された港町だ。その後1886年の第3次英緬戦争でコンバウン王朝は敗れイギリス領インドの一州となる。最後の王様だったティボウ王と一族はインドのボンベイに幽閉されコウバウン王朝は滅亡した。ラングーンを首都としたイギリス植民地政府は教育、住居、道路等の建設をしながら町は発展した。


街の中心地にはロンドンのハイドパークのようなビクトリア公園が建設された。池が作られイギリス人の憩いの場だったらしい。そして動物園が設置されたのは1916年になってから。ライオン、キリン、鹿などのごく当たり前の動物だけだが今でもヤンゴン市民の大切な憩いの場として存在している。敷地面積は東京ドームが8つも入るほどだが墓地をつぶして拡張した部分もある。

軍事政権が政治的首都をネピドに移転させ、新たな動物園が作られ動物も強制移動となった後も家族の娯楽の場として維持された。一時は軍政相手の商売で巨万の富を得た富豪が動物園の敷地を政府から安価で借上げようとしたが市民の反対で諦めざるを得なかったこともあった。毎週末になれば市内とその周辺から訪れる子供連れの家族でにぎやかになる動物園。森に囲まれた人々に愛され続ける憩いの場ではあるが、市民のための場所だけではなく昔から精霊の居場所でもあるようだ。


以前、動物園の職員と会った時彼は動物園の敷地内で自分が関わった精霊の話をしてくれた。ある夜、突然3歳の娘が激しく泣き続け高熱が下がらなくなった。そのため心配した彼の母親がナカドウというシャーマンにお願いすると良い、と言い出しさっそく敷地内に住む70歳過ぎの女性を訪れた。するとそのナカドウは、ビルマの精霊であるナットの1人のマペワがお腹を空かして苦しんでいる。そのためあなたの娘に入り訴えているのだ、と言う。そのため彼はナカドウの言うまますぐに牛肉料理を作り、キリン舎の近くでそのナカドウに食事を振る舞った。するとナカドウの中に入って来たマペワは、老婆が食べるとは思えないほど非常に沢山料理を食べ続けた。娘の父親である彼もナカドウと一緒に食べなければならなかった。その時彼女が手に取った料理を彼の口の中に手で入れたのだが、彼の唇に触れたナカドウの指は凍るほど冷たくおののいた。

食事が終わるとナカドウの中に入っていたマペワは満腹になったらしく、自分の娘の中から離れたようで娘は突然元通りの元気な体になった。彼はそれまでナットと呼ばれる精霊の存在は信じていなかったがその出来事以来信じるようになった。動物園が開設される以前から大木が生い茂る敷地内には他の多くのナットや霊が住み着いているようだが、その中でもマペワは墓地に住み他のナットを支配する力の強い精霊だと言われている。


ミャンマーではナットを信仰する人たちが多く精霊に関する話は非常に多い。しかしヤンゴン市内のでは宅地が進み、車の渋滞は激化し空気は汚れてくる現実の中で、精霊たちも息苦しさを感じているのかもしれない。